歯のエナメル質をつくるエナメル芽細胞を毛髪細胞に変化させる分子を同定-東北大

エナメル芽細胞で、神経堤細胞や毛髪で発現するSox21タンパク質が高発現していた

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東北大学は7月28日、歯のエナメル質をつくるエナメル芽細胞でSox21タンパク質が高発現していることを発見、さらにSox21タンパク質の発現を阻害したところ、成熟エナメル芽細胞で発現するはずの分子の発現が抑制される代わりに、毛髪や皮膚で発現している分子の強い発現が確認されたことを発表した。これは、同大病院小児歯科の齋藤幹講師および、同大大学院歯学研究科小児発達歯科学分野の福本敏教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「iScience」の電子版に掲載されている。

画像はリリースより

毛や汗腺、歯などの器官の発生過程や、その関連分子の発現は類似している。これらの器官は上皮系細胞と、その近くにある間葉系細胞との相互関係により成り立つ。歯の場合は、口腔上皮から陥入した上皮系細胞が、エナメル質を形成するエナメル芽細胞へと分化し、陥入上皮の周囲に集積した間葉系細胞が象牙質や歯髄へと分化することで歯が形成される。しかし、皮膚から陥入した上皮からは毛が発生し、歯は形成されない。また、口腔上皮から陥入した上皮細胞は歯にはなるが、毛には分化しない。同じ陥入上皮でも、皮膚と口腔との違いによる器官発生の差については不明だった。

研究グループは以前より、エナメル質形成に関与する分子の同定や、その機能解析を行ってきた。これらの研究から、神経堤細胞や毛髪で発現することが知られているSox21タンパク質が、エナメル芽細胞でも発現していることを新たに発見した。

Sox21の抑制で歯から毛髪が形成されること、EMTが引き起こされることを示唆

Sox21は転写因子で、iPS細胞作製で用いられるSox2と同じグループに属し、Sox2を抑制する機能を持つことが知られている。そこで、Sox21の発現を抑制した遺伝子組み換えマウスであるSox21ノックアウト(KO)マウスの歯を解析したところ、遺伝子組み換えを行っていない野生型と比べ、歯の光沢が無くなり、歯に白濁が見られ、歯の強度が落ちたために歯が削れて短くなっており、エナメル質形成不全を生じていることを発見した。そこでSox21 KOマウスのエナメル芽細胞で発現している遺伝子を調べたところ、成熟エナメル芽細胞で発現するはずの分子の発現が抑制され、その代わりに毛髪や皮膚で発現している分子が強く発現していることが判明した。

この毛髪様構造物の元素解析したところ、毛髪とほぼ等しい分子構造を有しており、ほぼ毛髪と同様であることが判明。さらに電子顕微鏡で表面構造を解析したところ、Sox21 KOマウスの毛髪はキューティクルが減少していたが、歯から生えた毛髪様構造物も同様にキューティクルが不足していたという。これらの結果から、単一遺伝子の抑制で、歯から毛髪が形成されることが示唆された。さらに毛髪形成に重要な遺伝子発現を変化させることにより、完全な毛髪への応用が可能だと考えられるという。

エナメル質が形成されず毛髪が形成された分子機序を解明するために、Sox21によって発現が制御される分子をスクリーニングしたところ、Sox21はAnapc10遺伝子の上流に結合し、その発現を制御していること、加えてAnapc10タンパク質はFzr1タンパク質と複合体を形成することが明らかとなった。さらにSox21の欠損が、Anapc10とFzr1の複合体の形成を抑制することによって、Smad3タンパク質やSkp2タンパク質の発現を上昇させることがわかった。Smad3はTGFβ刺激によって活性化される細胞内シグナル伝達因子だが、このTGFβは上皮系細胞を間葉系細胞に変化させる上皮間葉転換(EMT)を誘導することが知られている。

その一方で、タンパク質を修飾するユビキチンリガーゼの一種であるSkp2は、Eカドヘリンを抑制することが知られている。そこで、歯原性上皮のSox21、Anapc10の発現を抑制したところ、Eカドヘリンの抑制とNカドヘリンの誘導が行われることも判明した。Eカドヘリンは上皮系細胞で発現しており、Nカドヘリンは間葉系細胞で発現することが知られている。このことから、Sox21を抑制することにより、口腔由来の上皮系細胞の一部が間葉系細胞に変化するEMTが引き起こされていることが示唆された。

歯・毛髪再生のみならず、器官の発生メカニズムの理解やがんの転移機序解明につながる可能性

ヘアバルジ領域に存在する上皮系細胞である毛包幹細胞は毛母細胞へと分化し、間葉系細胞である毛乳頭細胞と相互作用して毛髪は形成される。そこで、Sox21を欠損させた歯原性上皮細胞に対して毛乳頭細胞で発現するSox2と、毛包幹細胞で発現するLgr5タンパク質の発現を調べたところ、Sox21欠損細胞においては、Sox2、Lgr5ともに発現が認められ、歯原性上皮細胞から成熟エナメル芽細胞ではなく、毛乳頭細胞や毛包幹細胞と類似した細胞が形成され、これらの細胞により毛髪が形成される可能性が示唆された。

間葉系細胞は骨や血管などに分化する中胚葉由来といわれていたが、最近の研究から外胚葉からEMTが起こり、間葉系細胞へ分化することがわかってきた。また、がん細胞の転移においても、このEMTが関与していることが知られている。

研究グループは、「Sox21はこのEMTに関与している可能性が示唆され、これらの研究成果は、歯や毛髪の発生のみならず、さまざまな器官の発生メカニズムの理解や、他組織への分化転換への応用、がんの転移機序の解明にも貢献でき、新たな組織再生療法の可能性につながると考えられる」と、述べている。(QLifePro編集部)

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東北大学 プレスリリース

管理人コメント

Sox21タンパク質とは、iPS細胞作製で用いられるSox2と同じグループに属し、Sox2を抑制する機能を持つ転写因子のことで、脱毛や薄毛の原因遺伝子と言われています。

まず東北大学は、この細胞が歯の表面を覆う部分であるエナメル質をつくる「エナメル芽細胞」で「Sox21タンパク質」が高発現していることを発見していると報告しており、Sox21タンパク質の発現を阻害したところ、毛髪や皮膚で発現している分子の強い発現が確認されました。

この研究により、歯の細胞になるエナメル芽細胞に発現しているSox21タンパク質の抑制で、歯から毛髪が形成されることがわかったと言えるでしょう。

毛髪形成に重要な遺伝子発現を変化させることにより、完全な毛髪への応用が可能だと考えられ、今後の薄毛治療に大きな一歩を踏み出したと言えるかもしれません。